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静電気の対策

3-3 イオンバランスとは


イオンバランスとはイオンに含まれる+イオンと-イオンの割合を表し、ボルトで表現します。 あるイオン空間中に置かれた物体(接地されていない物体、あるいは他の物体と電気的に接続されていない物体)が最終的に帯電する静電位です。全体的に+イオンが多いとイオンバランスは+何V、-イオンが多いと-何Vと言います。 除電のためにはイオンバランスは0Vに近いほど効果があるとされます。それはイオンバランスが除電の結果の残留電圧に近いからです。 
 特に半導体分野ではイオンバランスが大きいとICが破壊されるため、できるだけ0Vに近いものを要求されます。逆に、半導体が含まれない(例えばプラスチック分野)ではイオンバランスにはそれほど注意を向ける必要はありませんが、その製品に半導体が含まれている場合は、イオンバランスはできるだけ0Vに近づけるのが理想的です。 イオンバランスが0Vに近いイオンを、わかりやすくするために仮に「品質の良いイオン」としましょう。品質の良いイオンを用いれば、静電気を限りなくゼロまで除去できます。逆に品質が悪いイオン、つまりイオンバランスの悪いイオンを用いれば、静電気を完全に除去できません。イオンバランス分の残留静電気は残ってしまいます。 例えば、イオンバランスが+100Vのイオンを用いて除電すると、除電後の残留電圧は+100Vになります。このような意味でイオンバランスは0Vに近いほど除電効果があります。すなわちイオンの品質は良いほど、より高い除電効果が期待できます。  実際のイオンバランスはイオナイザー(除電器)の方式やモデルにより異なりますが、次の表にありますようにDC型の高精度型では±1V~3V程度、DC型の普及型では±10~100V程度、AC型で±12~100V程度、パルス型では±100~1,000V程度のイオンバランスを示します。 


 
  イオナイザー(除電器)のタイプ  仕様 イオンバランス性能  使用可能分野 
1 DC型 高精度型  ±1~3V程度  半導体 
2 DC型 普及型 ±10~100V程度  半導体、その他分野 
3 AC型   ±12~100V程度  半導体、その他分野
4 パルス型 パルスAC型
パルスDC型 
±100~1,000V程度 半導体以外 
プラスチック分野 他 
 
  この表から、イオンバランスの悪さが顕著に出ているのがパルス型イオナイザーで、±500~1,000Vもの大きなイオンバランスを観測するものもあります。これはイオンバランスが大きく脈動していることを表し「スイング」とも言います。パルスの周波数が低いほど大きな脈動(スイング)が現れます。 
 したがって除電対象物またはその周囲が半導体を含む場合は、パルス型イオナイザーの使用は危険です。半導体を破壊する恐れがあります。 
 ただしその他の分野で半導体が含まれない場合(例: 繊維や紙、樹脂などの分野)、イオンバランス自身は悪影響を与えないため、そこまで注意する必要はありません。 


 


 
コラム イオナイザー(除電器)からも静電気が発生する?
静電気を除去する道具であるイオナイザー(除電器)が静電気を起こすのは、実は本当なのです。 
 イオナイザーで品質の悪いイオンをかけると、静電気が発生します。品質の悪いイオンとは、イオンバランスの悪いイオンのことです。イオナイザーによる静電気は、実際、大なり小なり発生している現象ですが、一般的には知られていません。 
 たとえば、よく使われている交流式(AC)イオナイザーでは、通常±13V(ボルト)、50/60Hz(ヘルツ)のイオンバランスの脈動が発生し、除電しようとしている対象物をAC13V、50/60Hzに帯電させています。「まさか」と思うかも知れませんが本当です。
 また、パルス式イオナイザー(パルスAC式イオナイザー、パルスDC式イオナイザー)では、対象物を±500V以上に帯電させることもあるので要注意です。パルス式イオナイザーの場合はイオンバランスが桁違いに悪いものです。とくに半導体などの電子部品を用いた対象物(電子回路基板や液晶ディスプレイなど)の除電をする際にパルス式イオナイザーを至近距離で用いると、半導体が破壊される危険があり、注意が必要です。 
 では、なぜそのような危険なことが起きてしまうのでしょうか。理由は簡単です。パルス式イオナイザーでは交互にプラスとマイナスのイオンがふりかけられるので、除電しようとする対象物もプラスとマイナスに帯電させられてしまうからです。その周波数は約0.1 Hzから30 Hzですから、結果的に対象物を±500V、0.1~30 Hzに帯電してしまうわけです。 
 一方、直流式(DC)イオナイザーでは、イオンバランスは交流式やパルス式のように変化または脈動は起こりません。ただし、イオンバランスは場所により変化しやすいため、適切な場所で用いれば、±1~3V程度に低くすることができます。 
 したがって、脆弱な電子部品を高精度に除電するには、このDC型が最適と言えるでしょう。 
 

 
コラム イオンバランスの落とし穴 
 イオナイザー(除電器)メーカーの説明と事実の間に、なぜこのように大きな食い違いが起きてしまったでしょうか。原因は、従来のチャージプレートモニター(イオナイザーテスター)では、このイオンバランスの脈動を見る事ができなかったことにあります。測定器の測定結果出力が数字であったため、脈動そのものではなく、脈動するイオンバランスの平均値の表示を見ていたのです。
 しかし、現在の新しいチャージプレートモニターはグラフィック表示になっているため、微細な動作状況もモニター画面で手にとるようにみることができます。その結果、特にパルス型イオナイザーを用いている半導体関連分野では、予想外のイオンバランス脈動がおきていることに気づいて、慌てているのが世界の現状です。 とくに半導体業界では、世界標準に則して±10Vにしたつもりが、イオンバランスの脈動を加味すると何と±500 Vになっていました。 これでは除電のつもりが、実は半導体に0.1~30 Hz、±500V以上もの帯電をさせ、静電破壊を起こしている可能性があるのではないかと推測できます。 
 
静電気を除去する製品
バータイプ   デスクトップタイプ   ハンディタイプ

TAS-311 BAM
 
 
TAS-812 SMT
 
 
TAS-21 GCB

 
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この記事を書いたのは
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監修
経歴
高柳 順
名古屋大学大学院工学研究科量子工学専攻卒(工学博士)。専門は量子工学・応用物理学。名古屋産業科学研究所研究員やアイシン精機(現アイシン)を経て、株式会社TRINC(トリンク)現社長。
   

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